急速な人口増加と経済成長を遂げつつあるアフリカ諸国の食料生産力を持続可能な形で向上させていくことは、国際的にも大きな課題とされています。しかしながら、その方法をめぐって幅広い合意が形成されているとは言いがたい状況があります。この問題を解くうえで近年注目されているのが、「地域の文化・アイデンティの核である食料生産や消費の主権は生産者や地域のコミュニティにこそある」とする「食料主権(Food Sovereignty)」という概念です。「食料主権」は当事者である農民の立場に立ち、短期的な増産ではなく、環境と調和をはかりながら農業生産や消費を持続的に発展させていくことをめざすという考え方です(Wittman et al. 2010)。

本共同研究は、アフリカ各地において人々がどのような判断基準と在来知を持ちながら日々の食材や調理の選択・決定を行っているかという、食にかかわる人々の主体的な選択過程を、現地調査を通じて明らかにしていきます。それによって、食料主権の望ましいあり方について学術的・政策的議論を深化させることを目指します。その分析を通じて、食料主権に関する議論を深化させ、調和のとれた農業開発の実現に貢献したいと考えています。

参考文献
Wittman, H., A. A. Desmarais and N. Wiebe (eds.) 2010 Food Sovereignty: Reconnecting Food, Nature & Community. Food First Books.
小川 了2004『世界の食文化11:アフリカ』農山漁村文化協会.
石川博樹・小松かおり・藤本武(編)2016『食と農のアフリカ史:現代の基層に迫る』昭和堂.